図書館からの推薦本

沖晴くんの涙を殺して:額賀澪

 

病気で余命1年と宣告された主人公は、仕事を辞めて故郷に戻り、そこで1人の高校生と出会います。彼の名前は沖晴。
沖晴は大津波に遭いながら、奇跡的に生き延びることができた少年です。ただし、家族はすべて失って。

1人で生きる沖晴は、主人公との交流を通して、まわりの人との繋がりを取り戻していきます。「喜び」以外のすべての感情を失った状態から、ひとつひとつ感情を取り戻していきます。

怒りや嫌悪、悲しみといったネガティブな感情は、時には鬱陶しく持て余してしまうものでもあります。でも、それらはすべて生きている証、そういう感情も含めて生きていることが愛おしいと思える作品です。

(司書 山中)

2021年04月26日

その犬の名を誰も知らない :嘉悦洋著

 

犬の名は。

今でも、たまにテレビ放送される映画『南極物語』。
1957年、第1次越冬隊は、南極探検ため、樺太犬を連れて行きました。
それらの樺太犬は、第2次越冬が急遽中止されたため、南極に置き去りにされてしまいます。
ところが、1年後、第3次越冬隊が南極に到着した時、生存が絶望視されていたのにもかかわらず、タロとジロの2頭が生き残っていました。
『南極物語』は、この史実を基にした映画です。

この映画のおかげで、タロとジロの2頭の兄弟犬が、お互いに助け合って、過酷な南極で生き残ったことは広く知られるようになりました。
しかし、当初、行方不明とされながら、数年後、昭和基地付近で遺骸が発見された1頭については、ほとんど知られていません。
作者は、鎖から脱出しながら基地付近にとどまった、この1頭こそが、年若く経験不足なタロとジロのリーダーとなり、兄弟犬を生還へと導いたと考え、その犬の名を知ろうと奮闘します。

樺太犬が南極探査でどんな活躍をしていたのかを、一頭ごとに振り返り、少しずつ手掛かりを集めていきます。
タロとジロとともに鎖から脱出するも、あと一歩のところで命を落とした犬の名は…。

(司書 中島)

2021年04月17日

友だち幻想:菅野仁


なぜ「友だち」との関係でこうも悩まなくてはならないのか?著者の菅野仁さんは2016年に亡くなってしまいましたが、友だち関係に悩む娘さんにあてて書いた温かい眼差しのこの本が、初版から10年以上の時を経て注目を集めました。キーワードは「同調圧力」。人との距離の取り方に悩むすべての人へ紹介したい本です。

すでに38万部以上の売り上げだそうです。CDなどはミリオン(100万)セラーという言葉がありますが、本、特に小説以外で30万部以上は、なかなか到達できない数字です。

過剰な「つながり」がもたらす息苦しさが生む「同調圧力」に目を向け、「人と人とのつながり」の常識を丁寧に問い直した著作。社会学者の著者が若年層向けにまとめたものです。著者の娘さんも「学校」という社会に苦しんでいて、その娘さんに向けたメッセージでもありました。ただ、著者の菅野さんは病気でもう亡くなっており、娘さんも20代前半という若さで亡くなっています。今、再び脚光を浴びているこの状況を、天国から見つめてどう考えておられるのか…

(司書 山中)

2021年04月08日

2020年のロマンス詐欺:辻村深月


文藝春秋社『オール讀物』1月号掲載

「コロナ禍でのストレス?大学生が会社員を暴行」という新聞の見出しで始まります。そして、主人公の大学・生耀太(ようた)と、高校生の娘の母親である未希子(みきこ)の恋心を秘めたやり取りを軸に物語は進んでいきます。

コロナ禍での2020年春の緊急事態宣言をうけた自粛生活、その期間、一人で過ごしたのか家族と過ごしたのか、友達や恋人と連絡を頻繁にとっていたのか、その中で絆が深まったと感じたのかぎくしゃくしたと感じたのか、地方にいたのか東京にいたのか…立場や状況によって見えた景色は様々なはず。上京したばかりの一人暮らしの大学生にふりかかる事件を通して、現代の「人の繋がり」について考えさせられる作品です。繋がる道具はSNS、扱う事件がロマンス詐欺(恋心に付け込んだ詐欺)、というところも、まるで「人と繋がる」ことは避けては通れないような、現代の社会を描いている作品です。

耀太と未希子のロマンスの行方は…あっと驚く結末。でも、読んだ後は続きが読みたくなる温かさを残すところが、辻村さんらしい作品だと思います。短編です。すぐに読めます。

文芸雑誌、敷居が高く感じられるかもしれませんが、一回で完結する短編も数多く掲載されているので、まとまった時間がない人にもおすすめです。図書館ではこういう雑誌を4種類購入しています。

(司書:山中)

2021年03月12日
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