
中学一年生の安西こころは、ある出来事を機に学校へ行けなくなり、いつも家で過ごしています。ある日一人で家にいると、部屋の鏡が突然輝き始め、潜り抜けてみると、そこは城の中でした…戸惑いながらも次第に心を合わせて繋がっていく7人の中学生の物語。ファンタジーの要素もあるので、普段ファンタジーを読まない人にとってはリアリティに欠ける物語にみえてしまうかもしれません。でも、7人の心の動きは、今どきの10代リアル、です。
本屋大賞受賞作です。
(司書:山中)
知らないことだらけ!?研究の面白さに触れることからはじめよう
サッカー小説など数々の作品を発表し、作家としても活躍されている川端裕人さん。そんな彼が、多様な科学分野の研究者を訪ねて、日頃の研究活動や研究内容をわかりやすい言葉で伝えてくれる一冊です。
著書の中に登場する「恐竜」「気象」など、6分野の研究者の中からお一人、サメの研究をリードする沖縄美ら海水族館副館長について紹介しましょう。皆さんの中には、沖縄美ら海水族館を訪れた人もいると思います。わたしは行ったことがありませんが、どうやら研究環境にも恵まれ、日本のサメ研究には持ってこいの場所らしいです
ところで、サメは何類でしょうか? 大きく分類すると魚類になります。魚類ですから、てっきり全てのサメが卵から生まれてくるものと思い込んでいました。ところが、実はそうではないらしいのです。一例を挙げると、沖縄美ら海水族館の名物ジンベイザメは、卵を産み落とさず、メスのお腹の中で胎仔(産まれる前の子ども)を育てるのだそうです。しかし、サメの研究者の間でもまだまだ解明されていないことがたくさんあり、サメの産み方は、「繁殖様式のデパート」と例えられるほど、多種多様で未知の世界のようです。
この本を読んでみると、驚きの連続とともに、まるで自らが研究室を訪れたようなワクワク感にかられること間違いなし!! 自分の興味の分野に限らず、まずは様々な科学分野に触れてみてはいかがでしょうか。
(司書 古川)
今度の異世界は、「江戸」?!
本屋に行くと、「チート能力を持って異世界に転生して、大活躍」という小説が大量に置いてあります。そして、その手の小説が、売上ランキングに、頻繁に顔を出しています。
きっと、今の中高生には、こんな本が大人気なんだろうな、と思うので、そんなノリで読める本を紹介します。
あらすじ…
昔の東京、「江戸」にタイムスリップする方法を知った「島辺国広」は、自分が受講する古文書解読講座の「会沢竜真」先生とともに江戸に旅立ちます。
江戸の様々な習慣に戸惑う島辺と、文献で知る江戸の姿を実際に目で見て感動に打ち震える会沢先生。
二人は、「医者とそのお付き」として、江戸の人々と交流する…。
あらすじを紹介すると、「『異世界』モノを、江戸時代に焼き直したものなんだな」と思うかもしれません。
しかし、この本の一番の特徴は、この本の「分類」にあります。
この本の図書館での分類は、「小説」ではなく、「歴史」。
つまり、この本は、れっきとした「歴史解説書」なのです!
主人公たちが江戸で何かを見聞きすると、それらが詳細に解説されるので、自然に江戸の知識が身につけることができます。
日本史の教科書を読んで、「難しそう…」と思ったら、ぜひ、この本を手に取ってください。歴史を生き生きと感じることができ、面白くなりますよ。
(司書 中島秀男)
『ハンセン病』を知っていますか?名前は聞いたことがある、その病気にかかった人が差別を受けていたことも知っている、という人も多いと思いますが、その人たちがどういう人生を送ってきたのか、具体的に興味を持ったことがある人は少ないのではないでしょうか。
この小説の主人公はその『ハンセン病』を患い、壮絶な人生を送ってきた人ですが、そんな哀しみ苦しみをクローズアップした重苦しい小説ではなく、ふんわりと温かい文体で、こちらもまた壮絶な人生を送ってきた和菓子屋の店長との心の交流を描いています。
もし、今、生きる意味が分からない…などと考えている人がいたら、ぜひこの本を手に取ってみてください。優しい文体で何かを語りかけてくれるはずです。
美しい表現の数々に、心が温かくなります。
(司書 山中)
サバクトビバッタの生態を研究するためにアフリカのモーリタニアへ旅立った筆者。サバクトビバッタは数年に一度アフリカで大発生し、農作物に甚大な被害を与えます。それは、食料危機を引き起こすレベルです。
バッタの研究でアフリカを救いたいという気概が認められ、現地の研究所から『ウルド』という高貴なミドルネームを与えられて研究活動をした記録が綴られています。
ただ、この本の面白いところは、バッタ研究の成果を披露する内容だけではなく、モーリタニア人の日常や考え方、食べ物や風景の描写も軽快な文章で綴られ、旅行記の側面も持ち合わせているところです。そのうえ、研究者の立場や日常、日本で科学研究を続けていく上での困難な状況も、興味深いエピソードやユーモアを交えながら語られています。
日本で食べられているタコは実はモーリタニアからの輸入に頼っています。モーリタニアが地図上でどこにあるのかも知らない人が多いのではないでしょうか。そんな国で日本の研究者が活動した記録、面白いですよ。
2018年新書大賞受賞作です。
(司書 山中)
「映像現場で働きたい!!」そんな夢を抱いて上京したが、現実はそう上手くいかない。しかし、巡りめぐって映画撮影の現場でバイトをするチャンスに遭遇する。ひたすら撮影が滞りなく進行するよう走り回り、俳優さんが気持ちよく本番に臨めるよう周囲にも気を配る。日の当たらない縁の下の力持ち役だが、これを率先してやる人がいないと現場は回らない。人をおもんばかることで、自分はどう行動したらいいのか考えを巡らすことが必要なのだ。そして、その背景にあるのは、常に人への尊敬の念だろう。果たしてそれは、映像制作の世界だけの話だろうか。いや、私たち一人ひとりが日々生きていく中で大切な心構えなのではないだろうか。
(司書 古川郁)
自分の居場所を守るため、男は立ち上がった!!
生物好きが高じて、水族館に就職した著者。好きを仕事にできる、あこがれの職場ではありましたが、そこは閑古鳥が鳴く寂しい水族館でした。
そんな中、とうとう廃館が検討されてしまします。
「このままでは自分の居場所が危ない…」。
危機感を抱くも、改善に必要な予算はない。では、どうするか。
答えは「できるところからやる。何でもやる」でした。
通常の水族館では考えられないような、考えても実行しないような展示を次々と実施。
その結果、入館者数が見事に回復。
その過程は、タイトルにあるように本当にドタバタです。表紙に「水の泡とは消えたくない」とありますが、自分たちが「水の泡」となって消えるかもしれない、という危機感もあったでしょう。
でも、著者の明るい、そして楽しい文章のおかげで、悲壮感を抱くことなく、一緒になって水族館の改革過程を楽しむことができます。
(司書 中島)
究極に不器用な二人の恋愛模様を描いた物語。
キラキラした人生を歩むことは、何年経っても決してあり得ないのだろうと思わせる主人公の男女二人。平凡すぎるほど平凡で、ここまで平凡で不器用な人っている?と思ってしまうほどのレベルであることがクセになって、どんどん読み進めてしまいました。
大都会でひっそりと、脚光を浴びることもなく、大きな幸福もなく生きている人…でも実はこういう人がほとんどなのが現実社会。市井の人が懸命に下手な生き方をしている姿を丁寧に書いているところが、不思議と共感を持てる作品です。小説を読むと「しょせん小説の中だけの話」と思ってしまう人に薦めたい小説です。
2015年の芥川賞受賞作家です、又吉直樹。でもこの作品は芥川賞作家にありがちな「時系列が複雑で読みにくい」「表現が凝りすぎて、よくわからない」「浮世離れしていて内容が入ってこない」などということは一切ない作品なので、日ごろ本を読まない人でも大丈夫ですよ。
(司書 山中)
著者は、京大の総長であり、霊長類学・人類学者です。特に、アフリカの現地で自らゴリラの社会に溶け込み参与観察をし、その生態を研究したこの分野での第一人者です。
ところで、皆さんは、サルとゴリラの行動は似ていると思いますか。山極先生によれば、両者は全く違うらしいのです。ボスザルという言葉を耳にするように、サルの社会ではボスが存在し、サルは仲間と食べ物を分け合い、仲良く向かい合って食べるということはしません。競争社会なのです。一方、ゴリラの社会は、群れの仲間の顔を見つめ合い、しぐさや表情で感情の動きを読み取りながら暮らすのだそうです。そんなゴリラの社会から見た現代人への警告とは何でしょう・・
どうやら現代の人間は、勝ち負けばかりを気にし、自分にとって都合のいい仲間ばかりを求め、閉鎖的な個人主義を作ろうとしている。つまり、互いの顔を見て、感情を読み取る感覚が薄れてしまい、信頼関係を築くことを忘れているのではないかとの警告のようです。
さて、日頃の自分の行動や感覚はどうでしょうか。振り返るきっかけになる一冊です。
(司書:古川 郁)
「スカンクワークス」を知っていますか?
ミサイルが届かない超高空から偵察を行うU-2。ミサイルよりも早いマッハ3で飛行するSR-71偵察機。安価でありながら超音速で飛行でき、自衛隊にも採用されたF-104戦闘機、世界初の実用ステルス機であるF-117攻撃機。現時点で世界最強とされるステルス戦闘機F-22「ラプター」。自衛隊での採用が始まったステルス戦闘機F-35「ライトニングII」。
これらの革新的飛行機は、ロッキード社の「スカンクワークス」と呼ばれる開発部門で生み出されました。
この本は、そのスカンクワークスの創立者である「ケリー・ジョンソン」が、自らの人生を振り返って書いた自伝です。
何がきっかけで飛行機の設計者になったのか、スカンクワークス設立の経緯、革新的なアイディアを生み出す手法など、航空機に興味がなくても、「人との協同」を考えるうえでヒントになることがたくさん書かれています。
そして、飛行機マニアには、特にこの本はお勧めです。数々の革新的飛行機はどのような背景で開発されていったのかが書かれていますから。
残念ながら、「ケリー・ジョンソン」自身は、1990年に80歳で亡くなっていますが、スカンクワークスは、その後も革新的な飛行機を生み出し続けています。これは、「ケリー・ジョンソン」の意志が後続に引き継がれたおかげなのでしょう。
(司書:中島)
一級建築士の青瀬の代表作品は、雑誌にも掲載された斬新な家。施主に喜ばれて建てたはずの家には、誰も住んでおらず、引っ越しをした形跡もなかった。その謎を追う話を軸に進むミステリー。
登場人物の幼少期や家族の物語、家をめぐる人々の思いなど、誰もが思い当たるような心の情景を絡めて、謎は解き明かされていきます。ミステリーとしてもハラハラドキドキでとても秀逸、そこに人々の心の描写も入り込み、悲しい事件も起こります。でも、読後は希望という名の何かを心に残す、そういう物語です。
『半落ち』『64』など、時代を映すミステリーの旗手の作品、読み終わったときは思わず「さすが!」と叫んでしまいました。
(司書:山中)
芥川賞受賞作です。
「逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。」
『推し』ているものがある人にはとても良くわかる言葉ではないでしょうか?
この言葉を新聞の書評でみかけ、心惹かれて読んだ本です。
『オタク』というネガティブな響きをもつ言葉で片付けられがちな「推す」という行為。対象が異性の人、ばかりではなく、同性だったり時には物だったり、様々なものを推している人がいると思いますが、推すということは、対象を理解しようとする、わかろうとする行為だということがこの物語から感じられます。「何かを応援する」ということが、生きる寄る辺となる、それは、オタクと呼ばれる人だけではなく、誰にでもある人間の性なのかもしれないですね。
主人公はアイドルを推す女子高校生。推しがすべて、という女子高生の生き方を、ドギツい表現も交えつつ、壮絶なタッチで描いた作品です。アイドル推しという言葉から連想する、キラキラちゃらちゃらした雰囲気を、これでもかというくらい排除した文体が新鮮です。推すという行為をこう表現するか、と衝撃を受けました。
21歳で本作が2作目という、若い作家さんの芥川賞受賞にびっくり仰天。図書館に入っています。今、書店では品薄です。いち早く読んでみてください!
(司書:山中)
新型コロナウィルス感染症対策により不要不急の外出自粛となり、自宅で過ごす時間が増えていますね。きっと家で食事をする機会が多いと思います。
少しでも「おうちごはん」を楽しくするために、料理に挑戦してみませんか?今まで料理をしたことがない、ハードル高そうだし、めんどくさいかも…そんな人に向けてとにかく簡単で美味しい、作りやすいレシピが満載です。自炊に関する基本的な疑問にも、わかりやすく答えてくれます。
個人的には火も使わない「納豆揚げ玉やっこ」がイチオシ。(P67)
自分で作ると残さず食べるので、体作りもばっちりですよ!
無理せず、まずは1品から作ってみる、と、できることからやってみてください。
「おうちごはん」を楽しみましょう。
(司書:鎌田)
『小僧の神様 他十篇』より「流行感冒」
およそ100年前、世界中を震撼させた感染症、スペイン風邪が流行しました。日本もその余波を避けられず、1918年(大正7年)スペイン風邪が大流行します。そしてその翌年、小説『流行感冒』が発表されました。
主人公の「私」は第一子を亡くした経験から、一人娘左枝子を外聞も気にせず異常なまでに神経を使い育てていましたが、とうとう親子が住む町にも流行性感冒が忍び寄ります。女中にも細心の注意を払うようきつく言い渡しておいたのですが、石という女中は私に嘘をつき、人が集まる芝居を観に行っていたのです。私は憤りから石に暇を出すと決めていたのですが、妻の言い分をくみ取り思いとどまることに。その後、石以外私の家の者は全員感冒に罹ってしまいます。常に不安と石への不信を抱えながら生きる私も石の献身的な働きに触れ、心に変化が生じ始めるのです。
今感染症が蔓延する中、私たちが抱える問題を描き出し、自らを見つめ直すきっかけになる小説です。
(司書 古川)
23区にはさまざまな謎がある
皆さんは、自分が住んでいる区や市の形を知っていますか?
小学校の社会科で、『郷土を知る』授業がありますから、おおよその形は知っていることでしょう。
でも、自分たちが住んでいる区や市が、いつ、その形になったのか、そして、その形が変わることもある、ということも知っていましたか?
先日ようやく決着した、江東区と大田区による新埋め立て地の帰属問題。いまだに帰属先が決まっていない境界未定地。住民の合意が得られないため、新座市に帰属できないままポツンと市内に存在する練馬区…。
この本には、このような、思わず「へぇ~」と言ってしまう、23区の逸話がたくさん載っています。本校生徒の多くが住んでいる東京を、もっと知るためにおすすめの本です。
最後にこの本からのちょっとしたミニ知識を。
「豊島」が付く地名は、北区にはありますが、豊島区にはありません。その理由は…。ぜひ、本書を読んで確かめてください。
(司書:中島)